90年代を代表する名作ドラマ『王様のレストラン』。
三谷幸喜氏による軽妙な脚本と、個性豊かなキャラクターたちが織りなす物語は、
今なお色褪せることがありません。
前編に引き続き、
劇中に登場した(あるいは名前が挙がった)至高のワインについて、
独断と偏見に満ちた「ワインのうんちく」を語っていきたいと思います。
放映当時、私はまだワインの「わ」の字も知らない若造でした。
改めて今視聴し直すと、
背景に映り込むラベルや会話に登場する銘柄がいかに豪華であるかに驚かされます。
ワインを学び始める前の私にとって、「ナポレオン」も「ドン・ペリニヨン」も、
せいぜい「高いウイスキーの親戚」くらいの認識でした。
しかし、知識を得てから観る『王様のレストラン』は、
一言一句に「ピクッ」と反応してしまう、まさに至宝の宝庫。
かつて私は、アカデミー・デュ・ヴァンの教本を取り寄せて読ませていただきました、
この本はデータの羅列にとどまらず軽妙な語り口でワインの解説をする良書でしたが、
「えっ!? モンラッシェを知らない?……頑張りましょう」
という一文に衝撃を受けたのを覚えています。
今回は第5話で三条さん(鈴木京香さん)が“豪快に”開けてしまった、
あの伝説のワインたちを中心に深掘りします。
シャトー・オー・ブリオン(Château Haut-Brion)
〜例外から生まれた「エレガンスの極み」〜
第5話で、バーメイドの三条政子さんが勝手に開けてしまった「その1」。
ボルドーの歴史を語る上で欠かせないのが「メドック地区の格付け」です。
1855年のパリ万博に際して設定されたこの格付けは、
1級から5級まで厳格に分けられています。
しかし、このシャトー・オー・ブリオンは非常に特殊な立ち位置にあります。
本来、この格付けは「メドック地区」のシャトーが対象なのですが、
オー・ブリオンは唯一「グラーヴ地区」から選出されました。
格付けが定まる遥か以前から、
その名声は国境を越えて轟いていました。あまりの品質の高さに、
**「メドックじゃないけど、こいつを1級に入れないのはおかしい」**と、
フランス人の合理性(あるいは寛大さ)がルールを捻じ曲げてしまったのです。
味わいは、5大シャトーの中でも最も香りが複雑で、
スモーキーかつエレガントと言われます。
三条さんがこれをグイッと飲んでしまったシーン、
今見ると冷や汗が止まりません。

シャトー・ラトゥール(Château Latour)
〜不屈の精神を宿す「ボルドーの巨人」〜
三条さんが開けてしまった「その2」。
こちらは正真正銘、「メドック地区」の格付け1級です。
5大シャトーの中で最も「男性的」「堅牢」と評されるのが、このラトゥール。
ラベルに描かれた塔(ラ・トゥール)の通り、
どんなに厳しいヴィンテージ(天候の悪い年)でも、
決して品質を落とさない力強さが特徴です。
正直なところ、「男性的」と言われても、
同じヴィンテージの1級シャトーをずらりと並べて比較試飲でもしない限り、
その真髄を理解するのは至難の業でしょう。
田舎に住むしがないワイン好きにとって、ラトゥールはまさに「高嶺の花」。
都会の華やかなワイン会にでも参加しない限り、お目にかかることすら稀です。
近年では、5大シャトーの中でいち早く
「プリムール(樽熟成中の段階で販売するシステム)」から離脱したり、
ビオディナミ(有機栽培の一種)への転換を進めたりと、
常に革新的な姿勢を貫いています。
そのストイックなまでのこだわりこそが、
ラトゥールの「男性的な強さ」の正体なのかもしれません。

ロマネ・コンティ(Romanée-Conti)
〜世界一の称号を冠する「神の雫」〜
そして、三条さんが開けてしまった「その3」。
これこそがワイン界の頂点、ブルゴーニュの至宝ロマネ・コンティです。
ワインに詳しくない方でも、この名前だけは耳にしたことがあるのではないでしょうか。
お値段の話をすれば、私が勉強を始めた頃ですら、
ボルドーの5大シャトーにトリプルスコア以上の差をつける超弩級の価格でした。
現在では、グレートヴィンテージともなれば、
地方なら家が一軒買えるほどの価格で取引されることもあります。
オフヴィンテージ(並の年)ですら、250万円から500万円という次元。
劇中で三条さんがこれを1本空けたということは、
給料換算すれば1年以上タダ働きしても足りない計算になります。
まさに「伝説の飲みっぷり」と言うほかありません。
ここで少し地理的なお話を。
前回のコラムで「シャンベルタンはジュヴレ・シャンベルタン村にある」とお伝えしましたが、
このロマネ・コンティもまた「ヴォーヌ・ロマネ村」に存在します。
実は、元々は「ジュヴレ」や「ヴォーヌ」というシンプルな村名でした。
しかし、村内のあまりに有名な畑(ワイン名)の名声を借りて、
「村名+ワイン名」へと改名した歴史があります。
村を挙げてのブランディング戦略、その元祖とも言えるでしょう。

クロ・ド・ヴージョ(Clos de Vougeot)
〜歴史ある城壁に囲まれた巨大な特級畑〜
ブルゴーニュの特級(グラン・クリュ)において、
ロマネ・コンティやシャンベルタンに次いで有名なのが、
この「クロ・ド・ヴージョ」でしょう。
ソムリエの大庭(白井)さんは劇中で「クロ・ド・ヴジョー」と発音していますが、
フランス語の響きとしては「ヴージョ」の方が近いかもしれません。
このワインの特徴は、なんといってもその広さ。
ブルゴーニュの特級畑としては異例の約50ヘクタールという広大な面積を誇り、
80以上の所有者がそれぞれ異なるワインを造っています。
そのため、「クロ・ド・ヴージョならどれでも美味しい」というわけではなく、
造り手によって当たり外れが大きいという、初心者泣かせな一面もあります。
この地には、シンボルとなる古城(シャトー・ド・クロ・ド・ヴージョ)が建っており、
現在は「ブルゴーニュ利き酒騎士団(シュヴァリエ・デュ・タストヴァン)」の本部として管理されています。
ワインを愛する者にとって、一度は訪れてみたい聖地の一つです。

最後に:ワインの資格試験を目指す皆様へ
『王様のレストラン』を彩るワインたちは、
ワインの勉強を志す人にとって知っていて当たり前の銘柄ばかり。
しかし、劇中の背景にちらっと映るラベルまでは、
DVDの画質ではなかなか判別できません
(いつか4Kリマスター版で解析してみたいものです)。
さて、今年のソムリエ・ワインエキスパート試験は7月に迫っています。
もし今、「ラトゥールって何?」という段階であれば、
正直なところ今年の合格はかなりハードな挑戦になるかもしれません。
私は合格までに2年の歳月を費やしました。
しかし、ワインの世界は暗記の羅列ではありません。
ドラマのシーンを思い浮かべたり、歴史的な背景を楽しんだりしながら学ぶことで、
知識はより深く定着します。
本気で「王様のレストラン」の住人になりたいと願うなら、
今からでも決して遅くはありません。
三条さんのように、
最高級ワインを「背景をよく知らずに楽しむ」のも一つの贅沢ですが、
その本当の価値を知ってから飲む一杯は、また格別の味わいになるはずですから。
2026年 4月 6日 那賀バイパス 桜開花状況
私がナノバナナと格闘している間に、
週末の雨で結構散りました



まだまだ下流のセブンイレブンからマックスバリューまでは見頃ですので、
都合の付く方はぜひいらしてくださいね。


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