昨今スクリューキャップのワインも増えましたが、
それでも「ワインといえばコルク栓」というイメージは根強いものです。
「だから何?」と言われればそれまでですが、
実はコルクを抜くという作業、初めて挑戦すると意外なほど難しいんですよね。
初めてのワインのコルク抜き
私自身の初コルクはもう遠い記憶の彼方ですが、
おそらく相当ぎこちなかったはずです。
そう確信したのは、前の職場で新人研修を担当したときのこと。
新入社員たちがワインの抜栓に見事なほど悪戦苦闘する姿を見て、
「ああ、自分も最初はこうだったな」と、
かつての青臭い自分を懐かしく思い出したのです。
ソムリエとしての経験と慣れ
前職のホテルはワインを主軸にする店舗ではありませんでしたが、
それでも20年以上のキャリアの中で、数百から数千のコルクを抜いてきたでしょうか。
ソムリエという肩書きがある手前、ワインの注文が入れば、
他のスタッフから「お願いします」と場を託されます。
とはいえ、これはまさに経験がものを言う世界。
「慣れればソムリエじゃなくてもできる」作業です。

プロが使う道具「ソムリエナイフ」とは
さて、プロがワインを抜く際に使う道具を
「ソムリエナイフ(ウェイターナイフ)」と呼びます。
私が勉強を始めた20年ほど前は、
ホームセンターで500円も出せば買えたものですが、
ワインブームの沈静化とともに、最近は店頭で見かける機会も減りました。
ソムリエナイフは、いわば“最安のプロ用ツール”です。
今でも1,000円程度で手に入りますが、
安すぎるものはスクリューが曲がりやすく、耐久性の点でおすすめできません。
憧れの一本「シャトー・ラギオール」
ソムリエは、その華やかなイメージに反して、
その実はウェイターに毛が生えた程度の仕事なのでお給料は決して高くありません。
そんな中で、何万円もする道具に手を出すのは相当な勇気がいるものです。
それでも20年前、私は一念発起して一丁のソムリエナイフを奮発しました。
その名も「シャトー・ラギオール」。
フランスの刃物の名産地、ライヨール地方で作られるソムリエ垂涎の逸品です。
ちなみに「Laguiole」という綴りは、フランス語ではライヨールと発音されるのでしょうが、
日本ではなぜか「ラギオール」という読みが定着しています。

見栄と実用性のはざまで
当時はまだこの形を模した安価な製品も少なく、独特の使い癖はありましたが、
お客様の前でこれを使うと不思議と“プロらしく”見える気がして、
一種の見栄を張っていたのだと思います。
もっとも、その違いに気づいてくださるお客様がどれほどいたかは、今となっては疑問です。
そう考えると、実になんとも「コスパの悪い」買い物だったのかもしれません。
ラギオールに宿る“特別な時間”
残念ながら、その高価なナイフも寿命を迎え、今はもう壊れてしまいました。
最近の晩酌はもっぱら缶チューハイ。
ソムリエナイフを握る機会もすっかりなくなり、
引き出しの奥では数千円のナイフが2〜3本、静かに眠っているだけです。
それでも、時折あのラギオールの重みと手触りを思い出します。
あの一本を手にコルクを抜くという行為には、
日常を少しだけ特別にする
「魔法のような時間」が宿っていたのだと、今になって思うのです。


コメント